【ご飯がとまらないシソ漬レシピ秘話】
先週の野菜セットには青シソが久しぶりに入ったので『ご飯がとまらないシソ漬』レシピをご紹介したところ、大好評で多くの方が「つくったよー!」と報告してくださいました。
このレシピをご紹介する度に必ず思い出すのが、千葉にいた頃お世話になった成田市の無農薬栽培野菜農家のSさんです。ご近所のママ友さんに紹介され、Sさんの野菜セットを毎週買い始めたのがSさんとの出会いです。
配送代金を浮かすため、私の住む印西市からSさんの成田市まで毎週野菜セットを取りに行きました。それまで『野菜セット』なるものを買ったことがなく、季節に関係なく好きな野菜を買って好きなメニューで料理をしていた私にとって、Sさんの野菜セットは最初のうちは本当に慣れないものでした。ジャガ芋の季節になるとジャガ芋がずーっと続く。虫の穴がたくさんあって、ときには虫も入っている。葉物がしょんぼりと萎れている。自分では買ったことないような野菜が入っている。経験不足の私は、野菜セットを取りに行くたびSさんに文句を言っていました。「ずーっとジャガ芋が続いて困る。毎週食べきれなくて残ってしまう。」「虫の穴がたくさんあって気持ち悪い」「なんでこんなにしょんぼり萎んでいるのか」「ゴーヤは毎週は食べられない」「キャベツや白菜はないのか」・・・・。今思い出すと困ったお客さんです(笑)。でもSさんはそのつど丁寧に説明してくださいました。「一つの場所では収穫できる野菜が季節ごとに決まってきてしまうものなの。夏には夏の野菜ができて、冬には冬の野菜しかできない。野菜にはそれぞれ旬があって、旬の間はずーっとその野菜がとれ続け、旬が終わったらピタリとその野菜が食べられなくなる。そういうものなの。全国から野菜が集まるスーパーでは自分の好きなように色々野菜を選べるけど、産地限定にするとその産地の旬に合わせた野菜を食べ続けなければならないのよ。自分で野菜作って食べている人はみんなそうよ。」「無農薬栽培では虫を1匹1匹とっていくのよ。農薬をかける方が簡単で綺麗な野菜ができるけど、どっちが身体に良いと思う?」「無農薬栽培の野菜や野の花は、収穫してすぐに萎んでしまうものもあるのよ。古いわけじゃないのよ。水に漬ければ元に戻るから大丈夫。」「今の時期はこれしかつくれないのよ。キャベツができれば苦労しないよ。夏に冬野菜を作ることは不可能だし、それぞれに栄養分も違うから食べる人間にとっても不自然なのよ。夏野菜には身体を冷やしたり夏バテを軽減してくれる栄養があって、冬野菜には身体をあたためたり風邪を予防してくれる栄養があるのよ。」と私につきあって丁寧に答えてくれました。そんな私達のすぐ頭上を、爆音で飛行機が通って会話が中断されます。ジャンプすれば手が届きそうなくらいの高さで飛行機がなめるように通り過ぎていくのをいつもSさんは苦々しく見送りました。「この爆音で豚も出生率が悪くなったし、鶏も卵の数が減ったのよ。動物も人間もすごいストレスなのよ。」
そう語るSさんは1970年代の成田空港建設反対を最後までされてきた方々のお一人でした。Sさんは国から圧力を受けましたが畑を絶対に売らなかったため、成田空港の滑走路はSさんの畑を避ける不自然な形になりました。
Sさんを知るまでは成田闘争は過激な人々の運動かと思っていましたが、実際のSさんは報道等から受けたイメージとは全然違う、ただただ自然と動物と野菜を愛する優しいお人柄の方でした。
そんなSさんから教わったレシピが『シソ漬』でした。例のごとく「シソなんて刺身とかの飾りじゃないですか!こんなにたくさん食べられません!」と文句を言う私に「騙されたと思って作ってみてね」と笑顔で渡してくれたレシピでした。シソ嫌いだった私を変えた、魔法のレシピでした。もう10年も前のことです。
Sさんはかごしまんまの原点です。同じ空の下で今、Sさんはどうお過ごしなのでしょうか。シソ漬を見るたびに思い出すのです。
平成28年6月28日
Edit by 山下 理江