【梅の木】
先週末は、熊本地震で大きな被害を受けた益城町にあるボランティアベース『木山サテライト』へ物資を届けに行きました。そこで手配やスケジュール管理等をしているみゆきさんに聴いた実話をご紹介します。
益城町住民さんがボランティア依頼する内容は、瓦が落ちて雨漏れの恐れがある屋根にブルーシートを被せる、倒壊家屋の中からお位牌や写真や大切なものを取出す、めちゃめちゃの家の中を片づけるなど様々です。しかし時には「切れた電灯を交換して欲しい」というようなことを依頼してこられる方もいます。そういう依頼の数々の優先順位を決めて手配したりやんわりとおことわりしたりしながら日々激務に追われるみゆきさん。
ある日、1人の男性が受付に訪れて「姉の家の梅の木を助けて欲しい」と依頼されました。みゆきさんは心の中で「うーむ梅の木か・・・」と思いながら話を聴きました。
その男性の姉夫婦の家は全壊でした。年老いたご夫婦で、4月14日の夜の前震が起きて避難所に向かいましたが人が多くてやむなく自分の家に戻り、比較的安全そうな玄関に布団を敷いて寝ることにしました。そして16日の夜中に起きた本震で、寝ていたご夫婦の上に柱が落ちてきてご主人に直撃しました。奥さんが声をかけても動かず返事もありません。奥さんにも柱が当たり負傷していましたが翌日にレスキューが来るまで一晩中ご主人に声をかけ続け、そのまま病院へ搬送、入院。搬送先の病院でご主人の死を知らされ、40日間の入院生活を終えて退院されたのでした。辛い現実を受け止め、弟さんに連れて行ってもらって倒壊した自分の家を見たお姉さんが口にしたのは「かわいそう!お父さんと一緒に植えた梅の木が弱っている!」でした。それは55年前、結婚記念として植えた梅でした。大木に育った梅の木に、倒壊家屋の軒が重くのしかかり枝が折れていたのでした。
7月22日に合同のお葬式があるので、それまでにどうしてもなんとかしてあげたい。そう思った弟さんが、梅の木をどうか助けて欲しいと木山サテライトを訪ねてきたのでした。みゆきさんは話を聴きながら涙がこぼれます。ちょうど1軒目の現場を終えたボランティア仲間たちも休憩に入るところで話を聴いていました。机には未処理の依頼票が積み上げられています。ホワイトボードにはこれからの作業予定も書かれています。みゆきさんは困って仲間を見ました。するとみんな無言で頷いたり親指を立てたりOKのサイン。休憩を返上ですぐに現場に行き、「重機は入らないから人力だね!今からやろう」とチェーンソーや丸鋸、バールなどを持ってすぐに動いてくれました。「まかせといて!」「何とか助けてあげたいね」「弟さんの想いもお姉さんの願いも叶えてあげたいね」と。それから「無事救出~!」とドロドロになった仲間たちが作業を終えて帰ってきました。軒を切り取って梅の木に負荷がかからないようにしたこと。倒れていた電柱を取り除いて家の土壁を切りとったのでみんなでドロドロになったこと。折れた枝の部分は切り口を揃えてきたこと。嬉しそうにみゆきさんに報告する仲間の顔はみんな輝いていました。「なんて素敵な仲間なのだろう・・・」みゆきさんは心からそう思ったそうです。
梅の木の救出作戦は、私が木山サテライトへ行った日も続いていました。ボランティアの女性がチューブタイプの薬を持って「梅の枝の切り口にこれを塗ってきます。梅の木は夏に切るのは良くないらしいから!」とみゆきさんに報告し、そして作業に走っていきました。
『梅の木』はもし公的機関に依頼したら受付順になって、お葬式に間に合わなかったかもしれません。もしかしたらやってくれないかもしれません。民間だからこそ迅速に臨機応変に動けるのです。こうした民間ボランティアベースに必要物資や差し入れを随時提供し支えることはとても意味があり重要な事だと思います。今後も微力ながら続けていきたいなーと思っています。
平成28年7月20日
Edit by 山下 理江