【ニオイは愛しい】
養鶏場や養豚場はものすごいニオイと騒音の為、都市部では住民運動で移転や廃業を余儀なくされたという話がたくさんあります。また、住宅地に隣接する畑ではニオイの強い堆肥(糞尿)や米ぬかや油粕などの有機肥料を使用すると苦情の嵐になることもあります。
実際、私も千葉にいた頃は養鶏場や養豚場の周辺のニオイが強烈で嫌でした。
でもここ鹿児島、特にここ大隅半島は畜産王国。農業王国。いつも何かしらニオっています。畑に撒いた堆肥。その堆肥で育ったさつま芋から焼酎ができ、その焼酎かすを牛や豚が食べたり畑に撒かれたりして牛や豚や野菜が育ちます。菜の花が咲き誇り、菜種油が採れると、その油粕を畑に撒いて野菜の栄養になります。
このように有機肥料が大量にあって地域で循環しているので、大隅半島は自然と減化学肥料・減農薬栽培になっています。(都道府県毎の慣行栽培を調べると、鹿児島や宮崎は他の都道府県に比べて化学肥料・農薬使用量が少ないことがわかります。作物にもよりますが使用量が多いのは北海道などの大型農業地です。)
住んでいる人達も多くが農業に携わっているのでニオイが当たり前の生活です。
ニオイの少ない化学肥料を使うと1期目はいいのですが、土の成分や生物のバランスが崩れていくので2期目以降の野菜の出来が悪くなったり連作障害などが出やすくなったりします。自然の中で出てくる有機肥料は自然に還りますが、人工的につくった化学肥料は自然に還らず畑のバランスを壊したまま悪循環にはまっていきます。窒素を多く含む化学肥料は、野菜も硝酸態窒素などの苦みやエグミ成分を多く含むようになります。農薬の多用は微生物や虫に耐性がつくのでさらに強い農薬を使うようになっていきます。
ところで私達が飼うペットも私たち人間も必ず臭い糞尿を排出しますね。夏は水分を多くとって食欲が低下し、冬は体脂肪を身体に備えて太りますね。
同じように、開放畜舎で飼う豚や牛や鶏も夏にはたくさん水を飲んで食欲が低下し、冬には食欲が増して脂肪をたくさん身体に蓄えます。ですから肉質や乳成分も季節によって変化します。冬に『やごろう豚』や『黒豚』がびっくりするほど脂身ばっかりになったり、夏に『ごちそう卵』が水っぽくなったりするのもそのせいです。
閉鎖型畜舎で周囲にニオイを出さず、温度も湿度も光も1年中一定にしてあまり動けないようにして、満員電車のように密集して大量飼育しているのに抗生物質や薬剤の投与を多用して病気にならないようにした品質が均一な肉や卵は本当に安心安全でしょうか。
畜産業や農業に魔法はありません。
私達が添加物や化学調味料や人工甘味料を多く含むものを食べたり日光に当たらないと体調を悪くしたりしていくように、人工的化学的なものを多用した野菜や鶏さん豚さん牛さんも決していい方向にはいきません。
昔ながらの自然循環からできていく有機肥料、季節や光を感じる自然な飼育方法が一番なのです。
今日もかごしまんまの事務所周辺に漂う香ばしいニオイに愛おしさを感じながら、大きな空の羊雲に向かって「ニオイ万歳!」と両手を上げて深呼吸します。(ただしこれもまた放射能防御と一緒で、ニオイ万歳!なんて言うと日本ではまた生きにくくなるんですけどね~。ここ鹿屋市でもニオイ問題は時々議題にあがります)
今日も皆様の冷蔵庫と食卓が安心と幸せで一杯になりますように。鹿児島の農業・畜産業がずっとニオっていますように。同じ空の下、心から心から願っています。
平成28年10月14日
Edit by 山下 理江