【311後の新しい食の世界へ】
私は生まれも育ちも千葉で、食の安全に関心があった母の影響で、子供の頃から生活クラブや生協の食材と家庭菜園の野菜を食べてきました。そしてそれらに同梱される機関誌を読んでは「遺伝子組み換えや農薬や添加物はダメだ」と避けてきました。ところが東日本大震災があって、今度はさらにそれに加えて「産地がどこか」という点も気を付けなければならなくなってしまい、一時期は「食べるものが何にもない・・・」と落ち込んで泣いてばかりいました。
何が悲しかったって、私以外の周囲は何も気にしていないことでした。添加物や農薬を気にする人も、原発事故の影響を気にする様子はありません。スーパーに行けば他人の買い物かごにはNGフードがいっぱい。帰宅すると周囲の家には布団や洗濯物がどーんと干してある。頭がクラクラしました。共同購入した牛乳や卵を、誰にも見つからないようにして捨てる毎日。ほどなくして生活クラブも生協もやめました。誰とも話が合わず、孤独でした。
鹿児島へ母子移住してからも、調味料には苦戦しました。特にソースとつゆ。原材料が多すぎて、産地も添加物も納得いくものがいまだに見つけられていません。卵焼きや焼きそば、肉野菜炒め、カレー、お好み焼き・・・なんでもソースやつゆを加えて食べるのが大好きでした。でも311以降、ソースやつゆを買うことはなくなり、おうちごはんからどんどんソース味がなくなっていきました。
最初はソースの味を恋しく思いましたが、なんとか安心な代替品がないか探して見つけていくうちに九州や海外の色々な調味料にハマっていきました。特に味噌・塩麹・醤油麹(もろみ)・ナンプラー・黒糖・黒酒です。
鹿児島へきて最初にびっくりしたのが、ビニール袋に入っている味噌。しかもパンパンに膨れていることも。味噌が発酵して膨らんでいるのでした。まさに生きていることが実感できる味噌。食べてみると関東出身の私には甘い甘い。そしてなんだか舌に繊維が残る。よく見ると麦の繊維です。味噌に麦が入っているのでした。でもそれ以上に、この味噌で作る旬のお野菜のお味噌汁の美味しさに衝撃を受けました。それが『なつかしいあじわい山門味噌』です。
鹿児島では普通の人もどんどん公民館等で味噌を手作りして、そしてビニール袋に入れて売っています。今ではもう慣れてしまいましたが、最初はなんだか人類のものづくり売買の原点を見るようでカルチャーショックでした。
ナンプラーは『つゆ』や『出汁』の代わりになるものはないかと試行錯誤していた時に発掘したものでした。肉ジャガや肉野菜炒めやカレーやスープに入れて火を通すと、独特の臭みが消えて、まるでつゆやコンソメを入れたかのように料理に旨みを加えてくれます。火を通すと和食の隠し味として大活躍するのは意外な喜びでした。
塩麹や醤油麹は、自分で作ると塩加減や発酵加減や甘みを楽しめるので面白いです(時には酸っぱくなることもありますが火を通せば大丈夫)。塩麹はキュウリやレタスにあえて食べればドレッシングよりもノンオイルでヘルシーです。塩麹も醤油麹も、火を通すと旨みが増すので、肉野菜炒めや煮物の味をぐっと美味しくしてくれます。
黒糖は、粗糖よりも風味とコクがあって料理を引き立ててくれます。産地も南の国や鹿児島・沖縄だけです。
黒酒は、みりんと料理酒のいいとこどりです。火入れをしないので酵母が生きていて、天然のアミノ酸が豊富なので肉や魚をやわらかく美味しくさせたり料理の旨みをアップしてくれたりします。黒酒は鹿児島の知る人ぞ知るお酒で、昔はお正月のお屠蘇にも使用されていました。黒酒で料理の楽しさを皆さんにも知って頂きたくて酒類販売免許も取得しました。もうすぐHPシステムを一新して販売できるようにしますので楽しみにしていてくださいネ。
そうやっていくうちに、いつのまにかソースなしでも平気になっていました。これからも311後の新しい食の楽しみを皆さんにお伝えし続けていければな、と思います。新しい食の世界。上を向いてどんどん楽しんでいきましょう!
平成29年6月6日
Edit by 山下 理江