【味覚とは何か・その①~舌は必要な栄養素を学習するセンサー~】
千葉に住んでいた頃はゴーヤやミョウガ、シソ、三つ葉、パクチー等の苦い野菜や癖のある野菜は苦手でした。
ところが2011年に鹿児島へ移住して、九州の旬の野菜だけを食べ続けるようになってからはだんだん食べられるようになってきました。そればかりかいつの間にかゴーヤもミョウガも好きになってきているのです。不思議です。
そして関連性があるのかは不明ですが、母子で医者いらずになってきています。風邪っぽいものは医者へ行かなくても葛湯や梅ジュース、金柑の甘露煮、大根すりおろし等、手作りのものや季節の野菜でなんとなく自力治癒します。
自分だけのたまたまなことなのかな、と思っていたのですが、野菜セット定期便のお客さんから同じような声を結構頂くようになってきました。そこで好き嫌いとは何か、味覚とは何か、その謎を求めて何冊か本を読んでみることにしました。わかったことは、なんとまだ味覚の世界は解明されていないことが多いということでした。
糖度や塩分濃度は計測することができますが、甘みや旨みそしてコクなどは現代科学では数値では出せず、官能検査しかありません。官能検査とは、いわゆる『利き酒』や『テイスティング』などのように人間の舌や鼻で検査することです。サッカリンなどの人口甘味料にはよく「砂糖の300倍」というような記載がありますがこれも官能検査によるものです。では具体的な数値はどう出すのかといいますと、水に砂糖とサッカリンをそれぞれ希釈したものを用意し、人間の舌がどこまで甘みを感じるかを実験していき、感じる甘みの限界での水の希釈度によって『砂糖の300倍』ということになるのだそうです。人によって甘みの感度は違いますから、誠実なところでは『砂糖の300倍から700倍』という表記をしています。
私たちの舌は、毒物を苦いと感じ、身体が欲している栄養素を美味しいと感じるセンサーの役割をしています。
甘味は糖質、塩味はミネラル、旨味はアミノ酸、脂分は高エネルギー、というように舌は味で栄養素のシグナルを感じ取ります。そして驚くことに学習能力もあります。それが、最初は苦くてダメだったものを好きになったり、逆に最初は甘く美味しく感じられたものが嫌になったりするメカニズムです。具体的に言いますと、コーヒーやビールは最初は苦くて飲めませんが、経験を重ねていくうちにコーヒーは頭がすっきりする、ビールはコクと旨みと酔いを感じるようになり、それが「苦くても美味い」に変わって飲めるようになっていきます。逆に、人工甘味料の入ったダイエット飲料は最初は甘く美味しく感じますが、だんだんと本当の糖分ではないことを舌が学習して「嘘の糖分である」と認識し、マズくなって飲まなくなってしまいます。舌が「これは人工で嘘の甘みだ!身体に入れたくない」とシグナルを出しているのではないかと私は推測しています。
また欲しいタイミングもそれぞれ違います。コーヒーは朝やシャッキリしたいときに飲みたくなり、夜眠る前には飲みたくなりません。逆にビールは朝に飲みたいとは感じず、仕事やスポーツの後や風呂上がりに美味しく感じます。場面に応じて身体が欲しい効能や栄養素を、経験によって学習しているのです。
野菜も実は同じなのではないでしょうか。ピーマンやゴーヤは最初は苦くて食べられないですが、旬に食べ続けることによって身体が学習し始めます。「夏にゴーヤやピーマンを食べるとどうやら夏バテを軽減してくれるぞ」と。そしてだんだん美味しく感じるようになっていきます。冬は、生姜や金柑、根菜類、そしてネギが旬で、美味しく感じます。これらは悪寒や風邪等の改善に役立つものです。
人工的な物を摂取し続け、旬を忘れ、口当たりのいいものだけ食べている食生活は、舌がその季節に合った栄養素を探知できません。旬のものを食べ続け、苦くても頑張ることで舌が栄養素を学習して「美味しい」となる。そうして旬に必要な栄養素を取り続けるから医者いらずになっていく。そんな気がしています。
平成29年6月13日
Edit by 山下 理江