2023年7月前半号

Jun 30. 2023 かごしまんまだより

【素晴らしきスペシャルティコーヒーの世界 其の一】
スペシャルティコーヒー(以下SP)に3年くらい前からハマっています。
ここ鹿児島はSPが盛んで、世界的な大会で活躍する人が出るほどハイレベルな地域。
しかしSPが盛んになり始めたのは世界的にも2000年代で、日本スペシャルティ協会(SCAJ)が発足したのも2003年で、歴史はまだ浅いことがわかります。
さてSPとはどんなコーヒーでしょう。 SCAJのHPではSPを次のように定義しています。
『消費者(コーヒーを飲む人)のカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。(以下省略)』
風味は大切としても、酸味?という方もいらっしゃることと思います。
実は一昔前までのコーヒーは深煎り焙煎が主流で、酸味は劣化の味として低評価とされてきました。
米国では1970年代から大手ロースターの熾烈な価格競争により、品質低下によるコーヒー消費量の低下や小さな生産者さんの離農や失職を招き、これを危惧した人々によりSPの考え方が誕生しました。そしてコーヒー研究が深まるにつれ、丁寧な栽培と精製をして欠点豆を除去した高品質の豆は、焙煎や淹れ方によってフルーティな酸味や豊かな風味や特徴が出現することがわかってきました。
丁寧な栽培と精製は、実は小さな生産者さんこそが実現可能で、少量ロットの買取は小さなバイヤーこそが可能で、丁寧な独自の焙煎や淹れ方は小さなお店こそが実現可能です。小さなお店の独自のコーヒーを消費者が楽しむ。お互いに信頼を築き、毎年気にかけ、お互いを思い合う。この素敵なつながりにSPの真髄があります。なのでお店によっては農園や買取の様子を書いた紙をコーヒーとともに渡してくれます。そこに書かれたことは様々な農産物に通じるものを感じます。
元来コーヒー豆は、大量生産に向いていません。最低気温15℃以上・最高気温30℃以下で1200〜2000mm程度の降水量を必要とし、年平均22℃の高地での生育が良いとされます。この条件に合う土地は世界でも限られており、その多くが赤道を挟んだ南北回帰線の間にあって標高が高い地域でコーヒーベルトと呼ばれ、狭く険しい地形で生産条件が厳しいところが大半です。
ブラジルのコーヒー豆の生産高が世界一なのは、比較的広大な高地で機械化による大規模農業が可能だから。
一般的なコーヒーは、価格競争による低コスト重視なので欠点豆が混入し、それが渋味・泥臭さ・発酵臭・濁りの原因となります。
それに対しSPは、欠点豆を徹底的に排除し美味しさへの飽くなき追求で競う世界です。
バイヤーが生産地に直接赴き、良い生産者と出会い、良い豆を適正な価値で買い付ける。そしてそれが生産者の次の年の生産への意欲につながり、さらに良い豆への原動力になる。バイヤーから良い豆を仕入れたロースターが、その豆の特徴を存分に引き出す焙煎度にして、その管理・淹れる時のお湯の温度・抽出の時間とタイミングにベストを尽くして抽出したコーヒーをカップに注ぐ。コーヒーを飲む人は、その香り、酸味、味わいの中に様々なテイストを感じ、温度が低下するとまた違う風味を発見することができ、豊かな時間を過ごせる、これがSPの世界なのです。
それぞれのSP豆には生産国、生産地の標高、品種、生産者の栽培管理、収穫、精製方法、焙煎度、テイスト等が記してあり、これらの違いによる各コーヒー豆の奥深さや自分の好みを見つけていく面白さがあります。
豆の挽き方、お湯の温度、抽出方法や抽出時間、口に含むときの温度や時間経過によってもSPは全く違う表情を出します。
SPの特徴を引き出す淹れ方ができたとき、コーヒーからは様々な豊かな香りや味が引き出されます。
フローラル、柑橘類の爽やかな酸味、ライチ、桃のような甘味、そしてチョコレートのテイストがわかったときの嬉しさったら!
この豊かなSPの世界を、かごしまんまでもこれから少しずつ皆様にご紹介してまいりますね。

今日も皆様の冷蔵庫と食卓とおうち時間が安心と幸せで一杯になりますように。同じ空の下、心から願っています。

Edit by 山下 理江